第29章 別れと髪と、湯と理性と
「ところで…」
俺と彼女は、出発してからずっと二人して歩いて移動していたのだが。さすがに声をかける。
「このペースで歩いてたら、木ノ葉まであと一週間はかかるぜ」
『ええ!?』
別にこのままゆっくりと二人旅をするのも悪くないと思ってはいたが。
食料の問題もあるし、なにより怪我人をこのまま歩かせ過ぎるわけにはいかない。
「ん、」
俺は中腰になり、彼女に背中を向けた。
『ご、ごめんね。ご迷惑かけます』
多分、今まで何度もこうやって誰かの背に乗って移動しているのだろう。
彼女はさほど抵抗を見せる事なく俺の背に体重を預けた。
柄にもなく、今まで誰の背中にこうやって身を託したのだろう。なんて下らない事を考えてしまったではないか。
『…シカマル君』
徒歩の約三倍以上のスピードで移動する俺の背から、彼女の声がする。
「どうした?スピード落とすか?」
『いやそうじゃなくて…
私、謝ってなかったと思って…』
「…何が」
『私、シカマル君との約束守らずに 瞳の力を使っちゃったから』
「あー…」
そんな事を気にしていたのか。
そういえば、いつぞやに俺が盛大に脅したのだった。
これが他里に知られれば戦争になる、とか。眼球が奪われる、とか。
「あの場合は、仕方ねーだろ。
俺も結果的に、セツナを殺さなくて良かったと思ってるしな」
『そっか…よかった』
でも現実問題、アゲハを始末出来なかったのはかなり痛い。
『…黒蝶さんに、知られちゃったかな』
やはり、エリもそこが気になるようだ。