第29章 別れと髪と、湯と理性と
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「あいつ…女々しいところあるよな」
『え?セツナが?』
俺は地図を小まめに確認しながら、彼女を先導していた。
『男らしさ満点だと思うけど…。背高いし口悪いし。
どのへんが女々しいかな?』
「例えば…ほら、さっきの…髪の毛のくだり」
俺がここまで言っても、エリは全くピンと来ていない様子で。ただ首を捻っていた。
『?あれが女々しいの?
それにしても、なんだったんだろうね…あれは。私の髪の毛なんて何に使うんだろう。
あっ…ま、まさか…』
「……」
戦いに身を置く男が、想い人の髪を御守りがわりに持っている。なんてのは、別に珍しい話でもなんでもない。
俺はそんな事したいと思った事はないが。
なんとなくセツナも、そういう俗らしい事に興味のない人種だと、俺が勝手に思っていただけに過ぎない。
『呪いとか!?
たまに聞くよね…藁人形の中に、呪いたい人の髪を入れて使うって…!
ま、まさか私、セツナに死ぬほど嫌われてる?』
「……あーそうだな。俺もそれくらいしか使い道が全く思い当たらないわ」
『シカマル君!わ、私セツナに何したんだろ。
怖すぎ…。五寸釘でカツーンっていかれるの?」
「あー、いかれるいかれる」
どうして俺が、懇切丁寧に説明してやらなきゃいけない。
エリと一緒にはいられないセツナが、せめて髪だけでも側に置いておきたいと思ってるんだぞ、って?
馬鹿らしい。俺はそこまで親切な野郎じゃねえ。
いや、それにしても…
あそこまで色々と言われていて、色々と態度にも出されていて。
なぜこいつはセツナの想いに気が付かない?
もう鈍いとかそういう次元の話ではない。
『でもそっかぁ…呪いってのは、たしかに少し男らしくないかもしれないねぇ』
「そうだろ」
とりあえず、セツナの株が大暴落していく様が面白おかしかったので否定はしないでおこう。