第29章 別れと髪と、湯と理性と
なんだか、たくさん寝たような気がする。
もうこれ以上は寝ていたくないな、なんて気持ちになって。自然に目を開ける。
初めはすごく眩しくて、景色が認識出来なかったけれど。すぐに目が慣れてきてハッキリと見えてくる。
目の前には、ミナトとカカシとシカマルが憔悴仕切った顔で、一つの長椅子に腰掛けていた。
なぜか中央に座ったシカマルが、仕切りに貧乏揺すりをしていた。
断トツで歳は若いはずなのに…なんておじさん臭いのだろう。そう考えてしまったら、思わず口をついて出た。
『シカマル君…貧乏揺すり、おじさんみたい』
ガタリと、大きな音を立てて三人は一様に立ち上がる。
「よかった…目が覚めて…」
「……っ、本当に…心配した」
「意識戻っての第一声、完全に間違ってんな」
どうやら彼等には、かなりの心配をかけてしまっていたらしい。
混濁する意識の中で、懸命に私の状況を思い出そうと努力する。
私がここにいるという事は、贄牢閣の術は解除出来たということだろうか。いや、全員無事とは限らないではないか。
もし誰かが生贄となって、私達が脱出出来たのだとしたら。
『セツナと…黒蝶さんは…』
私は体を起こす事が出来ず、横を向いて寝そべったまま問い掛ける。
「セツナは、無事だよ。彼はこの国の責任者だからね。今は後始末に追われてる。
あと…アゲハは…分からない」
『分からない…?』
皆んな、私を病院に一刻も早く連れて行く為に動いてくれた。そのどさくさに紛れて、彼女は姿を消したらしい。
ミナトはその事について謝るが、私はむしろそちらの方がいいと思った。
アゲハは…これで完全に抜け忍となってしまったのだ。もし今捕まれば…それこそケジメとして処罰を与えるしかないだろう。
そうなってしまうくらいなら…どこか、どこでも良いから生きていて欲しい。
ヒラヒラと舞い踊る、蝶のように自由に…。