第27章 到着と生贄と、執念と偽善と
「逃すわけ…ねーだろ」
セツナは大きく息を吸ったかと思うと、瞬時に私の後ろから現れた。
おそらく、また時を止めたのだろう。
静止した世界を、彼だけが動く事が出来る…。改めて驚異的な能力だと感じる。
「あと少し…!は…っ、後少しなんだ」
再び私を人質に取ったセツナ。
とても息苦しそうだ。顔色も少し青ざめているような気がする。
私は、足の怪我のせいだと思った。しかしそれは見当はずれだったようだ。
「セツナ…もうその力を使うのはやめろ」
「……黙れ」
「お前自身が一番分かっているはずだ。
その能力は、多用すべきじゃない」
『??』
「…シュンと同じ物なんだろ、発動条件も」
「……」
沈黙は、肯定と取ってもいいだろう。
「兄貴は…本当に、お前達には何でも話してたんだな」
「…お前が時間を止める為の、発動条件は…
息を止める事。
息を止めている間、お前だけは時の裏側に存在できる。だが、その間ずっと…
お前の心臓の鼓動も止まり続ける」
心臓が…止まる?
私はなけなしの知識を総動員する。
たしか人は、心臓が止まると全身に血液が巡らなくなってしまう。そうなれば、ものの十数秒で意識がなくなってしまうのではなかっただろうか。
言わずもがな、生きている人間の心の臓が機能しなくなるというのは危険な事なのだ。
「強い能力には、それなりのリスクもある。
悪い事は言わない…もうその力を使うのはやめておけ」
「うるさい。お前には関係ねぇだろ!
お前達への復讐が叶うなら…俺はどうなったっていい!」
『駄目…、そんなのは、駄目。
セツナ、力使っちゃ駄目だよ』
「なんだ、お前まで…
ここにきて、助かりたくて必死か?あぁ?!」
『違うよ!私は…、私はセツナには生きていて欲しいから!』