第27章 到着と生贄と、執念と偽善と
全てを語り終えると、セツナは私を見て言った。
「…どうしてお前が泣く」
『……っ、』
「今まで、どんだけ嫌がらせしても怖がらせても涙一つ見せないで、それどころか 助けて の一言さえ口にしなかったお前が…
どうして他人の不幸話で涙を流す?
理解出来ねぇ」
「…エリ」
私には、今の話が事実かどうか知る術はない。ただ、カカシが全く否定しなかった。
信じたくはないが、今のセツナの話した内容が事実とそれほど違わないのでは?と思ってしまう。
少なくとも、セツナはこの五年間それを事実と認識し生きてきた。
可哀想に、辛かったね。なんて。私には到底口に出来ない。
だって、私には経験がないから。
父も母も、親戚も全て亡くして。唯一の希望であった兄弟までも失ってしまった…
それに等しい苦悩や怒りや恐怖など、私なんかには想像すらも難しいから。
ただ、一つ思ったのは。
『セツナは…
どうして、名前を偽ったの?
どんな気持ちだったの…、シュンって、私に呼ばれる為に、どんな思いをっ、していたの!?
もしそれが、憎しみを忘れないよう、自らの身に刻みつける為だったんだとしたら、
貴方の気持ちを考えると、私はとても
悲しい…。悲しいよ…!』
私の涙が、武器を構える彼の手の甲にぽたりと落ちた時。
首に食い込んだ刃の圧迫感が少し緩んだ。