第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
『待って!まっ』
ずんずんと着実に距離を詰めてくるシュン。そしてついには私をベットまで追い詰めて、馬乗りになってしまう。
「……」
顎を掴まれ、固定されて逃げ場などない。
彼の整った唇が容赦なく、躊躇なく近付いてくる。
『わ、分かった!食べるから。無理してでも食べるって!自分で!』
ぴたりと。彼の動きが止まる。
そして少ししてから、こくんと口の中の物か飲み下される音がしたのだった。
「…ならいい」
『…大人しく王子様の助けを待つのも、無理矢理に唇奪われるのも、趣味じゃないんだよね』
私は仕方なく、まだ十分に温かいお粥を食す。
一度飲み込んでしまえば、優しい温かさがとても心地良くて食欲を思い出す。
私は シュンがこの部屋を出てしまう前に、彼に質問を投げかける。
『…教えて欲しい。ここは、どこ?そして貴方は何者なの?』
しばらく考えて、彼は口を開く。
「ここは、時の里で、そして俺は…この里の長だ」
思ったよりも、彼の位が高かった事に驚きを隠せない。
私は、そんな人の命を…知らず知らずの内に助けていたと言うのか。
『……私をここに連れてきた目的は?私を使って、誰に、何をするの?』
「何でも答えてもらえると思うな。もう遅い。早く寝ろ」
『待って!シュン!』
「…明日は、こちらがお前に色々と聞く番だ。覚悟してろよ」
そんなセリフを吐き捨てて、彼はこの部屋を出てしまった。
その重い言葉に、嫌な考えを巡らせてしまう。
あの言い回しからして、私は拷問でもされて情報を吐かされてしまうのだろうか。
しかし、すぐにその考えが的を射ていない事に気が付いた。
『私…引き出されるような重要な情報、何も持ってないや』
この時ばかりは、木ノ葉里の重要機密性の高さに感謝したのだった。