第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
この部屋には、時刻を知る術が一切なかった。
しかしまだここに入れられて、そんなには経っていないだろう。
夕ご飯が運び込まれたのが数時間前。
今は夜中…。日付が変わるか変わらないか、といった具合ではないだろうか。
一口も手をつけなかった夕飯を、さきほどコウが下げて行った。
森を移動中も、当たり前だが食欲がなく。ほぼ食事を摂っていなかった。
久しぶりのまともな食事だったが、やはりそう簡単に胃は受け入れてくれなかった。
私は椅子から立ち上がり、扉へ向かってゆっくりと歩いて行く。しかし
ガチャンという音と共に、鎖が私の歩みを強制的に止めた。手錠をかけられている右手が後ろに強く引かれて痛んだ。
こんな事を、もう何度も何度も繰り返している。意味の無い無駄な行為を、何度繰り返したところで目の前の扉が開くわけもないのに。
しかし、
ガチャリと。突然扉が開かれた。
『っ!』
私は反射的に顔を上げる。
そこには、彼が経っていた。
「…飯を食えや」
シュンだった。
彼の手には、トレイが乗せられており。さらにその上には鍋に入った粥があった。
『…シュン』
彼は、テーブルの上にそれを置くと。
私の右手を捻り上げた。
『っ、!』
そして、手錠によって傷んだ手首を見て吐き捨てた。
「…手錠外そうとしたか?無駄だって分かってんだろ。馬鹿か。
お姫様は大人しくナイトの助け待ったらどうだ」
『なにそれ、メルヘン』
彼が私を馬鹿にして言っているのは目に見えていた。
「それより、食え。人質に飢えて死なれちゃ困る」
『…お腹、空いてない』
「そうか」
案外あっさりと引き下がったかと思うと、彼は続けた。
「お前がその気なら、意地でも食わせてやる。口移しをしてでもな」
『!』
そう言うと、彼はおもむろに自分の口元へと匙を運んだ。