第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
分かってる。彼の立場上、大っぴらに言えないのだろう。
大切な人が攫われた。俺の代わりにどうか助けに向かって欲しい。と。言いたくても、言えない。
…つくづく、火影ってのは面倒な立ち位置だ。
今回だけだ。俺も乗ってやる。付き合ってやるよ。その茶番に。最高にめんどうだけどな。
「…四代目、俺の性格知ってますよね…。
俺、たった一人の民間人助けに面倒事は勘弁ですよ。頼まれたって行きません。
これは、ただの好奇心で聞くだけっすけど…。
どこの誰が、どいつに攫われたんです?」
「…仕方ないな。極秘で頼むよ。
攫われたのは、エリだ…」
予想は付いてた。
俺の思考はもう先に行っていた。
彼女が、どうして攫われたか。だ。
俺の中の、最悪のケースは…
エリの、瞳の能力が族に知られて。それを利用しようと目論む奴らに攫われている事。
「奴さんが残していった書簡だ」
俺はすぐさまそれに目を落とす。
…なるほど。どうやら、俺が想定した最低のケースは回避しているようだ。
しかし、事態が好転したわけでは全く無い。
ミナトがここにいるという事実が、彼女の身を危険に晒している。
敵の要求は、カカシと火影のセットだからだ。
「ここに、サスケがやり合った敵の忍の特徴と内容がまとめてある。
それもう俺はいらないから。読んだらそちらで破棄してくれ」
「了解」
向かいながら読めって事か。さすがのミナトも焦っていると見える。
「…あ、すんません。俺急用思い出したので、もう行きます」
「……君が、頭の良い奴で本当に助かるよ。
お疲れ様。また、ね」
「そーでもないですよ」
本当に頭の良い奴なら、助けに向かったりなど決してしないだろうから。
俺は、その重い扉が閉まると同時に 目的の場所へと駆け出した。
「……シカマル…、カカシ。ごめんね、
頼んだよ」