第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
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俺はイライラしながら四代目の部屋へと、早足で向かう。
右手には、火影から俺宛に特急で送られてきた資料。もう日付が変わった、ド深夜だというのにわざわざ。だ。ただならぬ緊急性を感じる。
しかし、その資料が問題ありありだった。
誰がしたためたのか誤字脱字は多いし 空白は目立つしで読めた代物ではなかったのだ。
「…ったく。めんどくせぇ」
読めないのでは任務内容など把握できるわけはなく。自らの足で彼の元へ伺いを立てに行くしか方法はないではないか。
それにしても…あの波風ミナトがこんな凡ミス珍しい。
…まぁもしかしたら、疲れでも溜まっているのかもしれない。例の里とのゴタゴタ解決は正にいま火急の問題だから。
空いている左手で、目的の部屋の扉をノック。
しようとしたその時だ。
中から物騒な単語が聞こえてきたので、そのタイミングを失ってしまう。
「さすがのカカシも、今回ばかりは一人じゃ厳しいかも知れない。
初音、やっぱり俺の判断は間違ってたかな」
「…珍しいですね。貴方様が、そのように後ろ向きな発言とは。
後悔なさっているなら、はたけ様の後を今からでも追えばよろしいのでは?」
「無理だよ。俺は動けない。
…いくら、俺の愛しい人が攫われたからといってもね」
思わず、資料を持つ手の力が緩んだ。バサバサと地面に散らばった。
俺はそれらを拾う事もせず、扉をノックもせず。深い考えなどなく、その扉を勢い良く開けた。
「びっくりした。シカマルか…どうかした?」
少しも驚いた素ぶりなど見せずにミナトは俺を見ていた。
お付きの初音は、無言でこちらにお辞儀をした。
「今の話、なんスか」
「シカマルには、関係のない話だよ」
「……」
白々しい男だ。
わざわざ俺が、ここに出向くように仕向けておいて。
わざわざ俺が、扉の前に立ったタイミングで会話を始めておいて。
全ては、暗にその案件を俺に伝える為だろうが。