第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
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口寄せした忍犬のすぐ後を追いながら、サスケとのやり取りを思い出していた。
「カカシ…カカシっ…、」
強気な彼にしては珍しく、俺に縋った。
「俺が…俺じゃ守ってやれなかった…!
俺の代わりに、必ず…助け出してくれっ」
今にも泣きそうな顔で、半ば叫ぶように懇願していた。
「…だいじょーぶ。絶対に、連れ帰ってくるよ」
俺は出来るだけの笑顔をサスケに向けた。
次第に麻酔が効いて来たのだろう。痛みに耐える苦悶の表情も些か和らいだ。
俺は彼が眠りに落ちるのを見届ける前に、病院を飛び出したが。おそらくは病院で大人しく眠りについてくれる事だろう。
「…珍しく荒れてるな」
「今回ばかりはさすがの俺も、簡単に怒りが沸点を突破した」
こちらを振り向かないまま、パックンは俺の様子を不思議がる。
「でも…こんな時なのに、今思い出すのは他愛の無い場面ばかりなんだよね」
もうすぐオープンする、近所の居酒屋に行く約束をした事とか。
彼女の頭に、白髪が一本生えてたのを俺が見つけて。それにとてもショックを受けていた事とか。
花見に行く時の、弁当の中身はどんな物が良いか話をした事とか。
そういえば…パックン達を彼女の前で口寄せした事は一度もなかったな。
動物好きの彼女の事だ。可愛らしい笑顔で喜んでくれるのではないだろうか。
なんて、
本当に…そんな些細な事ばかりが、どんどん頭の中を駆け巡る。
「必ず、助けなくちゃね」
「…カカシにとって、それだけ大切な存在が攫われたという事か」