第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
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気持ち悪い。激しく揺れる乗り物に酔ってしまったような感覚。
軽い嘔吐感さえ襲ってくる。
『……ぅ』
「起きたか」
ここからの絶望的な眺めを見て、私は先ほどまでの惨たる状況が現実の物であると思い出した。
私はシュンの背中に負ぶわれて、高い木の上を高速で移動していた。
『……』
ここで暴れて落ちてしまいでもしたら。私の命はそれこそ今すぐに終わりを迎えてしまう。
「…抵抗しねーのか」
『ここから落ちたら、死んじゃうもん』
思った事を素直に口にする。
「そうか…お前、本当にただの一般人なんだな。
忍のしの字も知らないって顔してる」
一般人だから、どうだというのだ。まさか、私を忍同士の戦いに巻き込んですまない。とでも言うつもりじゃあるまい。
私は、彼の肩に置いた手で。ぎゅっと服を掴む。
「…休んでろよ。どうせこのまま二日は移動だ」
『二日…。そう…二日も』
「俺達だけが使える裏ルート使うから二日で移動できる。
正規のルートなら、三日はかかるからな」
腑に落ちない。どうして彼はわざわざ私にそんな情報を与えるのだろう。
仮に二日経って助けが来なくても、移動に時間がかかっているだけだから。私が見捨てられたわけじゃない。そう私に悟らせる、彼の優しさ…?
いや、まさか。そんな事は。
「時任様。話しすぎでは?」
私が疑問に思っていた事を、隣を駆けていたコウが。今まさにシュンにぶつけた。
「…別に、深い意味はない」
「……まぁ、たしかに。その捕虜にどんな機密を知られたところで…こっちとしては困る事は何もない。か」
その言葉の意味は、どこにあるのだろう。
私にいかなる秘密が知れ渡った所で…困らない。
それは、やはり。
私の先が、もうそんなに長くない事を意味しているのだろうか。