第26章 敗北と五年前と、立場と単騎と
「サスケ。悪いね。体辛いと思うけど、君が敵と相対した時の話を全部聞かせてくれるか」
実のところ、サスケには今麻酔の投与を待ってもらっている。
麻酔を使ってしまえば、目覚めるのも遅くなっただろうし。なにより意識が朦朧として話どころではなくなるから。
従って、今現在サスケの体中には常に激痛が走っている事だろう。
しかしそんな中、彼は言ってのけた。
「俺の体は、今はどうでも、いい。
俺がやったのは四人だ。時任と呼ばれてた、頭らしき奴と…
コウとサキという男女。あと、黒蝶アゲハが向こうにいた」
「あぁ…アゲハは、いま極秘任務で時の里に潜入させてるんだよ」
サスケは、目を丸くした。
「間者を、やってたのか…いや でも…
俺に向けられたあの殺気は…本物だったが」
おそらく、サスケの考えは外れていない。
彼女は目的の為なら仲間の命でも奪うだろう。
そういう冷たい心は、なかなかどうして忍向きなのだ。
「それに…あの時任という男…」
「…あぁ。その彼こそ、時の里の頭。長だね」
それは書簡にもあったし。俺もミナトと同じ見解だ。
「不思議な、感覚だった。動きが早いとか、もうそういう次元じゃなくて…
奴以外の全ての、時が止まったように見えた…」
「…時が、ね」
俺の呟きを聞き流し、サスケは続ける。
「赤髪の短髪に、緑色の三白眼。長身。
エリと面識があるようだった」
「何?面識が?」
「……」
俺は大いに驚いたが、ミナトは静かに耳を傾けていた。もしかすると心当たりがあるのかもしれなかった。
「あぁ、間違いないと思う。男の事をこう呼んでいた。
シュン。と」
「「!!」」
唐突に出たその名前に。俺とミナトはその場に凍りついてしまった。
「サスケ。その男は…時任シュンではないよ」
ミナトは、そこまで言うと俺の方へと視線を移した。
やむなく、俺が続きを紡ぐ。
「…時任シュンは、五年前。
俺と先生の目の前で、
死んだ」