第3章 猫と秋刀魚と、涙と笑顔と
泣きたい。もう泣いてしまいたい気分だ。
どうして今、こうなっているか。
時は数十分前に遡る。
私はサスケとカカシを見送った後。秋刀魚を七輪で香ばしくふっくら焼き上げるために、炭をいこそうと火を起こす準備に取り掛かった。
『うーん、上々。とても良い感じだ』
久しぶりの火起こしだったが、思いの外スムーズに事は運んだ。私はトングで炭をつつき、想像する。
この網の上に秋刀魚を乗せ。火に魚の脂が落ちて香ばしい匂いで辺りを満たす。その様子を。
そして満足げに秋刀魚に目をやる。
何度見ても見事な秋刀魚だ。二匹とも焼かれる事を今か今かと待ち望んで、その身をキラキラと輝かせてい…
『二匹?』ん?
いやいやおかしい。秋刀魚はたしかに人数分の三匹、そう三匹 お皿に鎮座していたはず。
私は狐につままれた心地で、再度皿を凝視する。
すると、視界にある生物が入り込んだ。
「………」ニャァ
『………』
待って。待ってくれ。ニャァではなくて。
私の目の前には、可愛らしい猫さんが大ぶりの秋刀魚を咥えてヒゲを揺らしている。
こんな…某国民的アニメ、サザエ●んみたいなベタベタの展開、いらない。
まさかこの後私は、裸足でこの猫を追いかける羽目になるのか?
『あの…それ、今日のうちの晩御飯なので、返してもらえると ありがた』
ピクリと。猫のしなやかな胴が反応した。
どうやら大人しく返してくれる気はないらしい。
『はぁ…分かった。じゃぁちょっと待って』
私は無事な秋刀魚二匹を持って、ダッシュで玄関へと向かい、それを家の中に置く。そして再びダッシュで猫の元へ駆け戻る。
なんと律儀にも猫はまだ消えてはいなかった。秋刀魚を咥えたままその場で待っていたのだ。
『……よし』
そこから、猫と私の…レースがスタートした!