第3章 猫と秋刀魚と、涙と笑顔と
「…はぁーん、そうかい。なら、別に良いんだが…もし惚れた腫れたの関係なら。
ちょっと言いたい事があってなぁ」
「言いたい事?」
意味深な店主の言い回しが気になった。
「先生、もちろん気付いてるよなぁ?
嬢ちゃんが…“全く笑わない事”
あんなにも可愛くて器量の良い嬢ちゃんが、くすりとも笑わないなんて…俺は気になって仕方ねぇや。
誰でもいいから…嬢ちゃんを、心の底から笑わせててくれるような奴は…いねぇもんかね。
と思ったまでよ」
…なんともまぁ、含みを持たせた言い方をするよね。
「…あーごめん、急に用を思い出しちゃった。ほら帰るよサスケ」
「分かってる」
「…おう!早く帰んな。
あ。その前に…これ。いつもうちの野菜たくさん買ってくれてるお礼だ。持って帰んな。
俺ももらった物なんだが、量が多くてな!お裾分け。嬢ちゃんと、あとついでに二人にも」
「あぁ、そりゃどうも」ついで…
俺は店主から小包を受け取って、足早に家路についた。
「…なるほど。あの感じだと、見事に二人ともってか…?いやぁ。若いって…いいなぁ」しみじみ
…何が、彼女の色々な側面に触れる事が出来ている。だ。
勘違いも甚だしい。
言われるまで気が付かなかった。俺は。多分この様子だとサスケも。
まだ一度も、彼女の笑顔を見られていない事。
「…ずいぶん急ぐね。サスケ」
「…は。アンタもな」ふん
さきほどまでは普通に歩いていたはずなのに。気が付けば二人とも早足だ。
「ま!早く帰らないとね」
「……」
サスケが俺の少し前を行ったかと思うと、今度は俺が前を行き。俺が先を行っているかと思うと今度はサスケが俺を抜き返す。
そうこうしているうちに、いつのまにか俺たちは本格的に走り出していた。
ただ、会いたい。会って今すぐ見たい。
彼女の“初めての表情”を。