第3章 猫と秋刀魚と、涙と笑顔と
まだ核心には触れていないけれど、それでも少しずつ少しずつ、着実に彼女の多様な側面に触れている気はしていた。
弱くて流されやすいと思っていた性格は意外と頑固なところもあって。
家事全般が得意で、彼女が作る料理は変わったものも多いけどどれも絶品。
食へのこだわりは凄まじく、食材選びから常に余念がない。そしてそれらを本人が好き好んでやっている事。などなど。
知れば知るほどもっと知りたくて、どんどん彼女にのめり込んで行く自分がいることも自覚している。
だからこそ分かる。
サスケもまた、彼女の不思議な魅力に少しずつ惹かれている事。
恋愛に縁遠かった俺達が、同時にそれも同じ人に惹かれている現状を不思議に思わなくはない。
しかし、そんな些細な事はどうでもいい。
いくら時間がかかっても、俺が彼女の心を手に入れることさえ出来れば…。
「おーい先生!今日はまた可愛い子を連れてるな!と思ったらサスケの坊か」
「……」イラァ
「ん、あぁ、こんにちは」
俺とサスケは、一番の目的である大根を手に入れるべく。八百屋まで来ていた。
俺とした事が、少しぼーっと歩いてしまっていたらしい。八百屋の店主に声をかけられる事で我にかえった。
可愛い子。と揶揄されたサスケは心底不快そうだった。
「残念だね。今日は嬢ちゃんはいないのかい」
「あぁ、まぁ。そんな日もあるよ」
「カカシ」
サスケはよほど早く家に帰りたいらしい。左手に目的の物をちゃっかり掴んで俺を見る。
「今日は特に良いジャガイモと南京が入ったから、嬢ちゃんと語り合いたかったんだが」
「そっか。ならそれも貰っていくよ。俺が家まで届けるから。きっと、喜ぶ」
彼女が喜ぶ様子を想像して、俺は思わず顔がほころんでしまう。
「毎度!
ああ、それはそうと。…先生よ。俺は前から気になってたんだが…
嬢ちゃんと先生はどういった関係で?」
「……」
ここは、なんと答えようか。
拾った?想い人?同居人…どれも本当で。うーん、悩ましい…
「ただの隣人だ。忙しい俺たちの代わりに たまに飯を作ってくれる。ただそれだけだ」
俺の代わりにスラスラと述べるサスケ。まぁそれも、嘘ではない。