第24章 エメラルドと瞬と、酒乱と酒乱と
私も、なぜ自分を助けたのだと。カカシに詰め寄った事がある。その時 彼は言ったのだ。私の顔が可愛かったから、だと。
もしかして、あの時の彼も同じ気持ちだったのだろうか。
カカシはカカシなりに、少しでも場を和ませようとしてくれていたのかもしれない。今更ながら、あの時冷たくあしらってしまった事を猛烈に後悔した。
「…お前、馬鹿なんだな」
『なっ…』
人の気も知らないで!と、文句の一つでも言ってやろうかと思ったのだが。彼の顔を見て、そんな気は失せてしまった。
彼の初めての笑顔が見られた事が嬉しくて。
片目を細めて、口元には八重歯が覗いていた。
まるで少年のように笑う人だと感じた。
私はいま、この人の命が助かって良かったと。
心の底からそう思ったのだった。
『え、同い年だ!』
「だからなんだよ」
『…時任さんとは、日常会話出来ないよ』
「……気持ち悪いな、その呼び方」
『え?』
「…シュン。って、呼ばなきゃ殺す」
『すぐ殺すって言う…。分かった。殺されたくないからそう呼ぶ。
じゃぁシュンさんは、身長いくつ?』
「百八十九。
同い年なんだろ。敬称もやめろ」
『…分かった。シュ、シュン』
このような様子で、私とシュンはしばらくの間 他愛ない話を続けた。
しかし、いつまでも話していてはいけない。
彼を早く休ませないといけない。
『じゃぁ、もう帰るから…
ゆっくり休んでね、シュン。
何か必要な物ある?もしもあったら、また持ってくるけど…』
「…いや。エリ、またな」
『!!』
少し目を伏せて、彼は言った。
そのたった一言が嬉しくて。私は返事をする。
『うん!また明日!』
時間はかかったが、少しは心を許してくれたのであろう彼。喜びと安心とが、私の心を満たしていて。
私は気が付かなかった。
私は名乗っていないというのに、
どうして彼が、エリ。と呼べたのか。という事に。