第3章 猫と秋刀魚と、涙と笑顔と
大根おろしのない秋刀魚は、甲羅のない亀。か。
先ほどの会話が頭の中で反芻されて。ついつい口元が緩みそうになる。
「おい、ニヤニヤするな」
「酷いなぁサスケは。先生マスクしてるんだから、どういう表情してるかなんて分からないでしょ」
「気配で分かるんだよ。気持ちが悪い」
本当にコイツは口が悪いな。でも不思議と、こんなトゲトゲ反抗期真っ只中なサスケも 彼女の前では丸くなる。
「…サスケってさ」
エリの事好きなの?なんて馬鹿な事を口走りそうになる。が、間一髪思い留まる。
「??」
「いや…やっぱ何もない」
おそらくコイツはまだ無自覚なのだろう。きっと自分でも自分の気持ちに気付いてない。
周りから見ていれば、惹かれているのは明白なのに。
それを…わざわざ教えてやるほど、俺は人が良くない。
「おいカカシ」
「ん?」
「アイツの事で、何か俺に話してない事があるんじゃないのか」
「…質問の意図が分からないな」
「アイツが違う世界から来た。って事以外の情報を全部教えろ」
エリが本当は死ぬつもりだったこと。
おそらく元の世界で何か、死にたくなるほどの辛い目にあったこと。
あとは…接触恐怖症の可能性、とかかな。今思いつく限りは。
しかしそれらを、サスケに話すつもりはない。
「え、やだよ」
「……」
「俺が、エリの事を見て、聞いて感じて。そうやって知った情報だもんこれは。
だからサスケも彼女の事が知りたいなら、直接聞いてみればいいでしょ。
ま!きっと本人が、教えてもいいと思う事は答えてくれるよ」