第23章 破術と秘密と、風邪と言の葉と
その日の夜。
『……37.6度…』
私は体温計の数字を見てげんなりとする。
やはり今日の、川にドボンのせいだろう。
まだ寝る時間には早いが、今日は早めに布団に入ってしまおう。
明日は講義はないものの、イルカとの打ち合わせが入っていた。今日のうちに治してしまって、明日に響かないようにしたい。
「…おい」
お風呂上がり、タオルで髪の水気を拭き取りながらサスケが私の顔を見て言った。
「顔、赤くないか?」
『え?そ、そうかな?別に普通だけど…』
「…」
サスケの手の平が、私の額にあてられる。
「熱、あるじゃねぇか。嘘を付く意味が分からない…」
『微熱…だから大丈夫だよ。洗い物して片付けたらすぐに休むから』
「片付けは俺がやっておくから、アンタはもう休め」
『!サスケ君は、お仕事で疲れてるんだからいいよ!私がやるか』
「いいって言ってるだろ」
彼の強い口調に、思わず体が強張る。
「…早く寝ろよ」
『……分かった。ありがとう…』
常に、何かの…誰かの役に立たないとって思って生きてきた。
会社では進んで雑用を引き受けたし、家でもずっと良い子を演じて両親の期待に応えてきた。
そうしないと、私なんていらない。
そう言われてしまう気がして怖かったから。
私は、私が他人に受け入れられない事に常に恐れていた。
私が今、この家に安心して住んでいられるのは。二人が家事全般を私に委ねてくれているから。
私が、料理を作れなくなったら。
掃除が出来なくなったら。
もしも二人から、もう必要ないと言われてしまったら…。
今は、それが一番怖い。