第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
『アゲハさんの事、抱いたんですか』
「……え」
あまりに唐突な質問に、思わず動転した。
『アゲハさんとセックスしたんですかって、聞いてんですよ』
直接的な物言いだ。普段の彼女なら、こうもハッキリと俺を問い質す事はしないだろうが。
彼女は今、酔っ払っているのだ。
「え…っと、して、ません」
俺はなんとなく正座して、体勢を正す。
『本当ですかぁ?』
「ほんとだよ」
確かに、彼女に奉仕を教えはしたが。
彼女に自分から触れたり、キスをした事は一度だってなかった。
『…へぇー、そうなんですか。私聞いたんですけどねー。はたけさん、あーんなに可愛い女の子に教えてるらしいじゃないですか!房事を!』
「…う、いや…ま、そうだけど」
しどろもどろになる俺を、彼女は見つめる。
彼女の瞳には、俺は今どう写っているのだろう。さぞ情け無い姿をしている事だろう。
『やっぱり…やらしいやらしいっ!!
卑猥だ卑猥だ!!房事なんて房事なんて!!房事』
「お、女の子がそんなに房事房事って連呼しないの!」
『うぅ…嫌だ…嫌、はたけ、さん…』
はらはら、綺麗な涙が彼女の頬をどんどん濡らした。
「…どうしたの」
俺は彼女の頭を撫でて、出来るだけゆっくり聞いた。
「う、…っ、く、///」
普段の彼女からは、想像も出来ない姿だった。
自分の感情に任せて、怒って、泣いて。
普段からこれくらい自分の気持ちを素直にぶつけてくれればいいのに。そう思った。
どれだけ理不尽なワガママを言われたとしても、
支離滅裂な言葉をぶつけられたとしても。
それがエリの口から発せられたものならば。
俺は愛しさしか感じない自信があった。