第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
『ん……あれ、はたけさん?あー帰ってきたんですねー。おかえりなさい』
「おかえりはこっちの台詞ね。相当酔ってるでしょ。お水飲む?」
『あ、欲しいでーす』
俺は用意していた水を彼女に持たせてやった。
すると彼女は美味しそうに喉を鳴らしながら、どんどんそれを飲み込んでいった。
『っは…、おいしいー』
そう呟く彼女の口元から、水が一筋流れて落ちていた。ただそれだけの景情が、とても綺麗でいやらしくて。
俺はその溢れた水を馬鹿みたいに眺めていた。
ひとしきり眺めた後は、それを拭ってやろうとハンカチを取り出す為ポケットに手を入れる。
「…あれ」
俺は はたと思い出す。そういえば、ハンカチはアゲハに渡したままだった事を。
『はたけ、さん?』
いつもよりも赤みを帯びた頬。
鼻をくすぐる甘い酒の匂い。
潤んだ瞳に、しっとりと濡れた唇。
そんな彼女を見て、唐突に触れたいと思ってしまった俺を誰が責められよう。
俺は口布を下げて。彼女の顎に手をかけ。
滴る水を自分の舌で掬い舐める。
『っん、///』
顎の方から、ゆっくりゆっくり徐々に上へ。
すると、彼女から熱っぽい声が漏れる。
そして、もうすぐ唇に到達する。というところで彼女の手が。俺の体を軽く押した。
「…ごめん、嫌だったね」
キスを拒まれた事が、意外とショックだった。
なんとなくだけれど、受け入れてもらえるものだと思い上がっていた。
俺は口布を上げてエリに詫びる。
すると、彼女は俺を睨み上げてこう言った。