第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
「こら」
「いたっ」
俺は彼女の頭を軽く小突いて叱りつけた。
「大人をからかうんじゃない。…はぁ、最低だ…俺は…」
絶対に、これだけはするまいと思っていた妄想に身を落としてしまった事に自己嫌悪中。
「…はたけさんは」
「呼び方」
俺はアゲハにハンカチを差し出した。
彼女の口周りは唾液とか、まぁその他の液体でベタベタだったから。
「…カカシ先生は、この授業に乗り気じゃないですから。少しでも前向きになって欲しかったんですけど」
「前向きどころか、やっぱり俺には向いてないってよく分かった」
アゲハは、俺に詰め寄った。
「や、やめないですよね!!個人レッスン!
私、抱いて欲しいなんて言いません!このままで良い!私がカカシ先生に、一方的に触れるだけで良いですから!」
「……」
いつもは強気な彼女の瞳が、焦りで揺れている。こんなにも彼女は俺を強く想っている。
「私の、気持ちだって…言ってないじゃないですか!言ってしまえば…貴方が離れて行くと分かっているから、言っていないのにっ」
「…アゲハ、君も分かってるでしょ。
俺たちは近くにいちゃいけない。お互いに、良い結果にはならないから。
俺は絶対に君を選ばないし、君が傷付くだけだよ」
俺は、意を決して冷たい言葉をわざと吐いた。
自分に非がなくても、他人が傷付く姿は見たくない。俺は彼女を直視出来なかった。
「……そんなに、あの人が良いんですか」