第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
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命令であれば、どんな任務でと請け負うくらいの気概は持っているつもりだ。ただ、どーもこの案件だけは気が重かった。
月に一度しかやってこない特別な部屋。
俺は深い溜息をひとつ吐いてから、その重たいドアを押し開ける。
そこには、いつも通り彼女の姿があった。
「…こんにちは。はたけさん」
「その呼び方はやめなさいって、いつも言ってるでしょ」
そう呼ばれてしまうと否応にでも脳内に “ 彼女 ” がチラつくから。
部屋には、ベットが一つあるのみ。あとは、テーブルもなければ窓も何もない。
室外と完全に切り離された、ここはまるで異空間だ。
足を休める椅子さえここには無いので、俺は仕方なく彼女の隣に腰掛ける。ベットがきしりと嫌な音を立てて軋んだ。
俺が三十分近くも遅刻して登場したと言うのに。彼女、黒蝶アゲハは文句の一つも言わない。
ふと視線を落とす。
ベットに張られたシーツ以外にも、もう一枚シーツがある事に気が付いたのだ。
「アゲハ、また俺の家入ったね」
「はい」
悪びれる事もなく、彼女は頷いた。
「…君ね、これ立派な泥棒だから」
彼女はゆっくりと俺の膝の上に乗った。必然的に、至近距離で見つめ合う事になるが。
俺はそれを拒否する事も、受け入れる事もしなかった。
ただ、じっとしているだけ。
「…今日も、触れてはくれないのですか」
「最初に約束したでしょ。俺からは何もしない。
そもそも、俺はこういう事はどーもね…
乗り気になれない。
だから、本気で手練手管学びたいんだったら他の先生がいくらでもいる。
よりによって、なんで俺なのよ」
「なんで、って…私が理由話したら、担当から外れる気のくせに。わざと聞くんですね」