第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
私に馬乗りになったアゲハは言った。
「私の事を知っているなら、話は早い。
はたけさんは私の物だから。アンタが邪魔」
『…本当に、好きなんだね』
彼女の痛々しい表情が、私の胸まで痛める。
「好き。彼を手に入れる為なら、人を…殺してしまえる程に」
そう言って彼女は、私の喉元にクナイを突き付けた。
こんなふうに命が脅かされても、どうしてだか不思議と恐怖は無かった。
「私の言う事を大人しく受け入れて、今日にでもこの家を出るというなら、殺さないであげるけど」
『………』
「そう。やっぱり、アンタもあの人の事…」
私は、何も答える事が出来なかった。
否定も肯定もしない私を敵とみなしたのだろう。
彼女の中の攻撃の色が濃くなった。
「私は…あの人の近くにいる為に、死ぬ程の努力を重ねて来た。
今日もこの後、私はあの人に抱かれるの」
シーツをぎゅっと片腕で抱き締めて、うっとりと笑う彼女は。
鳥肌が立つくらいに美しかった。
「大人の口付けを教えてもらって、優しく抱き締めてもらって…その後は…」
私にわざといやらしく聞かせるように説明する彼女を、ただ下から呆然と眺めた。
「……アンタは、彼の側にいる為に、どんな努力をしてきたの?
もし何もしないで彼の隣にのうのうと生きているだけだと言うなら…絶対に許さない。
もう話も終わり」
カチャリと、喉喉元で刃物の金属音がした。
「サヨウナラ」