第22章 ※蝶と房事と、誘惑と忘却と
私は恐る恐る、寝室のドアの前まで来た。
例えば、中にいるのが男の泥棒とかであったなら。私にはどうする事も出来ない。
いや仮に女の泥棒であったとしても敵うすべはないのだが。
しかし、私はそろりとドアの隙間から中を覗いた。
『………!』
中には、一人の女性。
少女と呼ぶには大人だし、大人の女性と呼ぶにはまだ幼い。
そんな彼女は。ベットシーツを体に纏い、静かに佇んでいた。
直感的に分かった。
肩上で切りそろえられた、美しい黒髪。
瞳の色は、彼女が目を瞑っている為に確認は出来ないが。きっとそれは緋色に輝いている事だろう。
彼女こそが…黒蝶アゲハだ。
愛おしそうに、彼女はシーツに頬を寄せる。
シーツに全身包まって、カカシに抱かれている想像でもしているのだろうか。
なんて、切なくて、儚いんだろう。
私はその姿を見ているだけで涙が溢れそうになるのを懸命に堪えた。
「……はたけさんの匂いが…薄い」
彼女の囁くような声で我に帰った。
「ねぇ…アンタのせい?」
『!!』
彼女は確実に、ドアの前に立つ私に向かって声を発していた。一体いつから、私がここにいると気付いていたのだろう。
呟いたその刹那、アゲハは私の腕を引き、床に体を叩き付けるようにして押さえつけた。
そしてその上に自分が乗り、言葉を続けた。
「アンタ、最近はたけさんの周りをうろちょろして。目障り。消えて欲しい」
冷酷な言葉を吐かれているのだが、私はあまりに綺麗な赫色の瞳に魅入ってしまっていた。
『……やっぱり…貴女が 黒蝶、アゲハ、さん』