第2章 優しい死神と、おにぎりと大根と
『なんて…なんて、綺麗な大根なの』
私は感動で震える声を抑えて言った。
「「…え?」」
大根の白い部分だけでなく、葉も綺麗に真っ直ぐに伸びている。
色に至っても黄色がかる事は一切なく、真っ白で少しふっくらしており。
ひげ根は少なく、なんとも滑らかな表面をしている。綺麗な水でしっかり育った証拠だろう。
「…お、お嬢さん。分かるのかい」
『もちろんです。ここに並んでいるお野菜どれも素晴らしいですね。
はたけさん、野菜はここで買いましょう』
「あ、はい」
この店が素晴らしいのか。この世界が素晴らしいのか。
どちらにせよこの店の野菜は最高の品質だった。
『トマトは、へたの緑が鮮やかで。こんなにも丸くてツヤツヤして美味しそう…。
ナスとキュウリも、棘が痛そうなくらいだし、葉物も巻きがしっかりしていて。ずっしり重量感があって…』
私は、キャベツ入ったカゴを持ち上げて重さを確認する。
「お、おっ、お嬢さん…!八百屋をはじめて35年。俺はこんなに嬉しかった事はないっ。
かみさんには内緒で、出来る限り勉強させてもらうから!好きなだけ買っとくれ!!」
「っ…あはは」
『何がそんなに面白かったですか?
そろそろ、笑うのやめて欲しいです』
「はは、だって、ほんと、おかしくて。エリでも、あんなに喋る事あるんだね。
っていうか普通、買い物で店の人が値引いてくれる時ってさ。
“お嬢さん可愛いから負けとくよ!”とかじゃないの?」
『…まぁ、それが一般的ではあると私も思いますけど』
「はー。いや君、ほんと面白い」店の親父さん感動して泣いてたよ