第18章 狐と本能と、血と炎と
しかし、いつまで経っても唇は降ってこなかった。
「…はぁ。…ごめん。俺が…どうかしてた。
エリとは、そんなふうにしたくない」
目を開けると、彼が泣きそうな顔でこちらを見下ろしていた。そんなカカシに、私は素直に今思った告げる。
『…はたけさんの、左目…初めて見ました』
「…見せびらかす物でもないから」
『目の辺り…触ってもいいですか?』
カカシは、どうぞ。と言うのと同時に、私の手が届きやすいように、顔を少しだけ下に降ろしてくれた。
瞼ごと大きく縦に入っている傷は、痛々しい物であったが。やはり一際目を引くのが、この真っ赤な瞳の色だろう。
下瞼にゆっくりと指を這わせる。
『…綺麗ですね』
「…君は変わってるね。
血の色みたいでしょ。気味が、悪くないの?」
『いえ、燃え滾る炎の色です。ずっと見つめていたいくらい綺麗』
「…初めて…言われたな。そんな事は」
彼は微笑をその口元に湛えた。
私をきつく抱き締め、寂しそうな様子のカカシ。こんなにも不安定で、何を求めているのか分からない彼は初めて見る。
私に、出来る事は何か。
危険な任務に付いて行くなど出来ない。それなら何か、待っているだけしか出来ない無能な私にも出来る事は…。
『はたけさん…
寂しい時は、こうして抱き合って寝ましょう。ハグは昂ぶった気分を落ち着けてくれますし。
危険な任務の後は、私にキスをして下さい。それで貴方の気持ちが少しでも救われるなら。
私も、嫌なら嫌とはっきり断ります。
だから…だから、
少しは、私に甘えて下さい。
私に、少しは貴方の荷物、持たせて下さいよ』