第18章 狐と本能と、血と炎と
「だって、…早く帰って、エリに言いたい事がね、あったから…」
私に急いで言いたかった事。色々な言葉を予想して頭の中で並べてみるが、やはり思い当たる物はなかった。
そんな私に、彼は心底嬉しそうに言った。
「あのね、…ただいま」
『!……おかえり…なさい』
その、たった一言を聞いただけで伝わって来てしまった。彼の、優しさが。
カカシが遠征に行く直前に、私が。身勝手な思いをぶつけたから。
引き止めたい気持ちを、隠せなかったから。
私にその言葉を言う為に、彼はここにいる。
その事実に、涙が出そうになる。しかしそれをグッと堪えて、立ち上がる。
『ちょっと、待ってて下さいね!』
「…ま、追いかけたくても、体動かないから…」
彼の言葉の途中だったが、私は構わずに寝室を飛び出した。
台所にて、食塩、砂糖、レモン汁。これらを水に溶かす。簡易ポカリスエットのような物だ。
そして洗面台に向かい、桶の中に湯を張って その中に手拭いを放り込む。
これで準備は完了した。すぐさまカカシのいる寝室へバタバタと駆け戻る。
『はたけさん、起きてます?』
「ん…、」
『良かった。失礼します』
「え?」
私はベットの上に乗り、カカシの頭の下に自分の膝を差し入れる。
「……わーぉ」膝枕…
絶対に辛いはずなのに、相変わらずの緊迫感の無さだ。
『ふざけてないで、これを飲んで下さい。私むこう向いてますので』
私は液体の入ったコップを彼に突き出す。