第16章 桜と猪と、講義と欲求不満と
二人の返事は、私の思っていたよりも随分と明るくて軽いものだった。
「超うらやましぃーーー!」
「ほんとに!いいなぁ先生!」
『……え、えっと』
もっと、ジメっとした嫌らしい嫌味や罵倒を予想していたのだが。
こうも素直に明るく返されると逆に返事に困る。
「…エリ、こいつらは大丈夫だ。
少なくとも、お前を階段から突き落とすような陰湿な性格はしていない」
いのはポニーテールにした綺麗な髪を揺らして、そう断言した。
「当たり前!あんな事するなんて、信じられないよね!先生が受け身取れなかったら死んでる!」
…あんなに重い荷物を持って、受け身なんて取れません。サスケが受け止めてくれなかったら打ち所が悪くて死んでいたかもしれない。
「私達、サスケ君の事は大好きだけど、先生に嫌がらせなんて絶対にしないから!」
「残りの教本はどこだ?運ぶ」
『あ、ありがとう。イルカ先生のデスクの隣が私のデスクだから、そこに残りが』
私が言い終わらないうちに、サスケは職員室の方へと歩いて行った。
「私達も手伝いますよ」
「先生の講義、楽しみにしてるんですよ!サスケ君が、おススメだって言うから私達も受講する事にしたんです」
サクラは小声で言った。しかし、サスケの耳には届いていたようで。
「俺は頼んで無い!」
素直じゃないサスケらしい一言に、私達は顔を見合わせて笑ってしまう。
サスケに、シカマル。イルカにサクラといの。
思いもよらず、たくさんの人の暖かい心に触れる事が出来た。
それだけで これから起こるであろう困難も、どんな逆境だって越えていけるような気持ちにさせてくれるのだった。