第16章 桜と猪と、講義と欲求不満と
サスケに、サクラと呼ばれた女の子は
片手にダンボール、片手に教科書を持ってニカっと笑った。
まさかとは思うが、片手でダンボールを受け止めてから。教本が地に落ちる前に、全て箱の中に集めてしまったというのだろうか…。
「大丈夫ですか?」
彼女は、桃色の髪を耳にかけながら私の顔を覗き込んだ。
『あ、ありがとう!大丈夫。教本受け止めてくれてありがとう…』
「いえこれくらい!余裕ですよ」
私を心配してくれるサクラ。そしてサスケはまた別の女性に声をかける。
「いの。どうだった」
「あーもぅ!ごめん!駄目だった…。上の階にいた人に紛れちゃって、見失った」
いのと呼ばれた女性が、階段の上から現れる。
どうやら彼女は、私を突き落とした人間を追って上の階まで行ってくれていたようだ。
「ごめんね先生。犯人取り逃がしちゃった」
『そんな、全然大丈夫だから。いのさんも、本当にありがとう。
みんな、サスケ君のお友達かな?』
「うーん、お友達って言うかぁ」
「うん。お友達以上の関係になりたいって言うかぁ」
二人は、サスケに熱い視線を送っている。
それだけで簡単に分かってしまう。彼女達が、彼に好意を抱いている事。
彼女達も、例の新聞を見たのだろうか。私の胸は、ドキドキと嫌な高鳴りをみせた。
「…先生は、サスケ君と一緒に住んでるんですよね?」
サクラが、核心に触れた。
一瞬どう答えようかと考えたが、返事はすぐに出た。
『うん。わけあって、はたけ先生の家にご厄介になっているから。必然的にそうなってるね』
もう、嘘をつくのはやめたから。