第11章 鰹と抱擁と、仲直りと告白と
そんな異様な一夜が明けた。
「あらアンタ、酷い顔だよー?もしかしてお布団合わなくて眠れなかったのかい?」
『あ、いえ…大丈夫ですので…』
正直に言えば、一睡もしていない。しかし仕事にそんな甘い言い訳など持ち込まない!
「前も、その前も…みんな住み込みの子は夜寝られなかったみたいで辞めちゃったんだよねぇ」
『…そ、そうですか…』
どうやらあの怪現象は、みんなが経験している通行行事らしい。
一体、誰が何の目的で部屋の前の廊下を徘徊などしているのだろう。
「はぁ…バッテラが、男の人は嫌だって言うから女の人ばかり雇ってるんだけどね?みんな、なかなか続かなくてね…」
『お、女将さん』
それ、多分息子さんのせいです。
おそらく貴女の息子さんが、住み込みの人用の部屋の前を徘徊してますよ。
それを君悪がって、みんなすぐ辞めてしまうんですよ。
って、言えたらどんなに楽だろうか…。
勿論 私の想像の域を出ない話なのだが。
『そ、それより今日は何を捌きます!?』
とにかく強引に話を切り替えた。
「そうだそうだ!今日はねー、またいい鰹が入ってるよ!」
『鰹…素敵ですね』
さすがに鰹は捌いた事がない。しかし動画で捌き方を見た事はある。そして見る限りは、そんなに難しくなさそうだった。
『よし…何事もチャレンジだ』
私は四キロ程の鰹をまな板に乗せた。
包丁を入れてみると、意外とサクサクと進む。身が柔らかいからだろう。
私は大胆に大きく刃を動かし、包丁を最後まで振り切る。
『やった!出来た…女将さん、チェックしてもらっても、いい…です、か…』
「いやまぁ珍しいですねぇ!四代目がこんなところで買い物なんて!///」
「いや近くを通りかかったものだから。
お、やってるね!どうかな?調子は」
私の言葉も、尻すぼみにもなる。
……こんな所に、なぜミナトが。