第10章 仕事と自立と、喧嘩と鯛と
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「今日は焼き魚か。
何?エリの様子見に行ったの?」
「…行くには行ったが。俺はアンタみたいに、一日中張り付いてたわけじゃない」
俺は鯛の身に箸を入れる。すぐに身はほろほろと崩れて湯気を放った。
「…サスケは、ほんと気配探るのも上達したよね」
いつもなら、コイツの食べる瞬間を目撃してやろうと。隙をついて盗み見たりするのだが。
今日はどうしてもそんな気分になれない。
「そんなに心配なら、どうして出ていくのを止めなかった」
「サスケだって同じでしょ」
「俺はっ…」
止めた。止めたけど。止めた上で相手にされなかった。
などと、言葉にしたくなかった。
「あのドラ息子…厄介だな」
やっぱり見てたんじゃないか。という言葉を飲み込んだ。
魚沼の、斜め向かいの建物の屋上。そこから強い忍の気配がした。洗濯物の影に隠れていたのはほぼ百%カカシだ。
「あぁ。あれが同じ家にいるのは、良くない」
「……そうだね」
食卓には、レンコンの金平と。チンゲンサイのおひたし。汁物が並んでいる。
勿論 俺が作ったわけではない。
エリが…出来るだけ作り溜めして、冷蔵庫に入れてくれた物だった。
次この味を食べられるのは、いつになるだろう。
「…気にしていた。アンタを怒らせた事」
「そうか…それは申し訳ない事をしたね」
「思ってもない事を言うな。ウスラトンカチ」
しかし、ここまで頑なに自分の我を通そうとするカカシも珍しい。
いつものコイツなら、何か自分の意にそぐわない事を言われても、ヘラヘラ適当に躱すくせに。
「確かにな。でもなんで俺は…こんなに頑固に意地張っちゃってるんだろ。自分が自分でよく分からない。
ま!こんな愚痴をお前にこぼすのもどうかしてると思うけど」
「…アンタ、自分で気付いてないのか?」
「へ?」
「妥協したくないんだろ。
こと、アイツの事では」