第10章 仕事と自立と、喧嘩と鯛と
やはり初日は緊張もするし、要領も掴めていないので時間があっという間に過ぎてしまう。
もう既に片付けに入ろうとしていた。
「間に合ったか」
『!サスケ君』
見慣れた買い物カゴを持って、サスケが店に来てくれたのだ。
『もしかして、お魚買いに来てくれた?』
「あ、あぁ。何がある?」
私が捌いた鯛が、まだ少しだが店頭に並んでいた。二人前なら、この量でも事足りるだろう。
『これ、私が捌いた鯛。オススメだよ』
「じゃぁそれをもらう。
ところで…どうだった?働いてみて」
サスケは、純粋に魚を買いに来てくれたのだろうか。それとも、私の事を心配して来てくれたのだろうか。
どちらにしても嬉しい事には変わりないのだが。
もし後者なら…なおの事嬉しい。
『うん、すごく楽しかった。私の好きな事だから。全然、しんどくないよ』
しんどくは、ない。しかし…
「…そうか」
今日の夜は、二人と同じ屋根の下では過ごせないのだ。そう考えるとやっぱり、
寂しい。
『…そうだよ。サスケ君がご飯作るの?」
「あぁ。もともとエリが来る前は俺が作っていたからな」
サスケは、そう答えながらも後ろを振り返った。
後ろに何かあるのだろうか?確認するように、私も彼と同じ方に視線をやるが、何も分からなかった。
斜め向かいの建物の屋上辺りを見ていたと思ったのだけれど。そこには洗濯物が干されている事以外、目ぼしいものは見つけられない。
諦めて私は話題を戻す。
『そっか!凄いね!』
「凄くなんか、ない。アンタの作る飯に比べたら…全然、凄くなんかない」
『…サスケ君』
「おい、仕事の邪魔するなら帰れよ」
出た。またこのタイミングで…
バッテラは、私の隣に立つとサスケを睨む。
「…頑張れよ」
サスケはバッテラの喧嘩を買う事なく、私にそう告げる。
『あ、ありがとう!気をつけて、ね』
私は、だんだんと小さくなるサスケの背中を見送る事しか出来なかった。