第10章 仕事と自立と、喧嘩と鯛と
「今日は鯛がほら、こんなに!」
女将さんが嬉しそうにそれを掲げる。
『わぁ!もみじ鯛ですね。どれも立派な…』
鯛には旬が年二回。
春に獲れる物を桜鯛。秋に獲れる物をもみじ鯛と呼ぶ。
「アンタ鯛は捌けるかい?」
『勿論です!全部三枚でいいですか?』
「いいよ!よろしくねー」
キラッキラの鯛が、所狭しと仕込み台に並ぶ。これを全て捌くのは骨が折れそうだが、好きな事なので全く苦にならない。
私は一匹を選んでまな板の上にあげる。
まずは…鱗を取って、頭を切り落とす。
次に、腹を切って内臓取り出して…血わたを綺麗に洗い流す。
後は手順通りに包丁を入れて三枚に分ける。
鯛は骨が硬いので少しコツがいるが、捌くのはさほど難しくはない魚だ。最後に皮を引いて完成。
「お!全部終わったんだね!ありがとー」
「うまいもんだな」
私が鯛を捌いている間、女将さんは店の掃除や他の魚を店頭に並べながら接客。忙しそうに働いていた。しかし…
このバッテラという男は…
掃除すら手伝う事なく、私の周りをウロウロしていたり。店の奥に引っ込んで、表に出て来る事すらしない時間も多かった。
私は自分の仕事さえ出来ればそれで良いのだが。
まぁ、面白くは、ない。
「あれぇ!?嬢ちゃんじゃないか!!」
『あ、おじさん。こんにちは』
私を嬢ちゃんと呼ぶ、この人は言わずもがな。八百屋の親父さんである。
同じ商店街で働いているのだ。当然会う事は予想していた。
『今日のオススメは鯛ですよ。どうですか?』
「嬢ちゃんに品もん勧めれられる日が来るとは思わなかったなぁ!よしっそれ買った!ひとつ包んでくんなー」
『毎度あり』