第10章 仕事と自立と、喧嘩と鯛と
後ろから急に声がして、私とサスケは同時に振り返る。
「その量の荷物持って、住み込みが どうとか言ってるんだ。アンタなんだろ?」
「お前はなんだ」
呆気にとられている私を横目に、サスケがその青年を睨み上げる。
「俺は魚沼バッテラ。アンタがこれから働く店の、一人息子だよ」
『そっ…それはご挨拶が遅れました。今日からお世話になります、中崎エリと申します」
「……ふぅん」
なんだろう…上から下まで観察するみたいに ジロジロと見られている気がする。
あまり気分の良いものではないが…
ここは我慢する他ない。
「オッケー、俺が荷物持ってやるから。行くぞ」
バッテラは、サスケから荷物を引っ手繰るようにして奪い去ると、さっさと行ってしまう。
「待っ、店の前まで荷物は俺が」
『サ、サスケ君!大丈夫、ここで大丈夫だから。
本当にありがとうね。また、会いに行くから…はたけさんにも、よろしくね』
私はサスケに手早く挨拶をすると、バッテラの背中を追いかけた。
「……お前の大丈夫、は。
大丈夫だった試しがないんだ」クソ
『改めて、よろしくお願い致します』
「こちらこそだよ!いやー本当に助かるよ!私一人じゃ手が回らなくってね」
一人…では今私の隣に立っている、この一人息子は普段ここでは働いていないのだろうか。
『あ、さきほどバッテラさんにお出迎え頂いて…。とても助かりました。素敵な息子さんですね』
「そうなのよー!この子気がきくし男前だし、自慢の息子なのよ!あっはっは!」
…なるほど、社交辞令が通じないタイプのお人だ。女将さんは…。
もしくは、それだけ息子を溺愛しているのだろうか。