第8章 鹿とたんぽぽと、デートとご褒美と
「あはは!なにそのカカシの狼狽っぷりは。そこは抱きしめてあげなくちゃ」
後ろから、爽やかなミナトの声が聞こえる。
それよりも。今更になって軽く震えが来る。さっきは無我夢中でカカシの胸へと飛び込んだが。
安心したら急に、人に触っている事実に体がこわばってしまうのだ。
「…俺も、そうすれば良かったって、今激しく後悔してますよ。でもこっちにだって、色々と事情があるんです。
ていうか…」
カカシが、私をとん。と軽く押して。自分の背面へ回してから、ミナトに向き直る。
「勝手に連れ出さないで下さいよ。先生…」
『…先、生?』
「いや、だって君が独り占めしちゃうもんだからさ…俺も早く会いたくて」
カカシは今確かにミナトの事を先生。と呼んだ。
「それにしても…見つかるのが俺の目算より早かったなぁ」
「シカマルが連絡をくれたんですよ」
「…ふぅんなるほど。結局どっちも立てたってわけ。やっぱ賢いなー彼は」
とりあえず…ミナトは敵では、ない?
私の取り越し苦労だったのだろうか…。
「じゃぁまぁ、仕方ないからカカシも付いて来る?今から詰所に行くんだけど」
「行きませんよ…俺も彼女も」
『あ、はたけさん。ミナトさんは、私がどうしてこの世界に来たのか知ってるらしいんです』
「今…、なんて」
カカシもこれ以上ないくらい驚いている。
それはそうだろう。この謎は永久に闇に葬られるであろうと予想していたのだから。
『ですから、どうして私が異世界に』
「そうじゃなくて…今、この人の事、なんて呼んだの?」
『…?ミナトさん』
「どうして!なんで!そんな親密に」名前呼びて
「はは!ほら行くよ。はたけさーん」
意気揚々と先頭を歩くミナト。
まるで廃人のようになってしまったカカシ。
私はその二人の背中を見ながらついて行った。