第8章 鹿とたんぽぽと、デートとご褒美と
オススメの店とやらに到着して、二人でテーブルにつく。しかし彼はフードを脱ぐ気配は一切なかった。
「ごめんね?今日はお忍びで来てるから フードはこのままで。
顔が差すと、色々と面倒だからさ」
『あ、いえ。気にしていません。大丈夫です』
顔が差す。という事は…もしかしてこの人は有名人なのだろうか。
「そっか。よかった。いやそれにしても、急に連れ出してきてごめん。驚いたよね」
『…はい、割と…』
「あはは!そりゃそうだ」正直だ
目の前に座る人は、明るく笑った。どうしてもこの柔らかい雰囲気に毒気を抜かれる…。
『あ、あの…貴方は、はたけさんかサスケ君のお知り合いですか?』
「んー…秘密?」
『……あ、じゃぁ、忍の方ですか?』
「まぁ、そうかなぁ」
何を聞いてもはぐらかされてしまう…
しかし、めげるものか!
『じゃぁもうせめて、名前教えて下さい。
私は中崎エリといいます』
「…ミナト、って呼んでくれる?」
私の質問にやっと答えてくれて、少しだけだが安堵した。
その後も彼からは何も語らない。
どうして訳もわからず強引に連れてこられた私の方が、会話の進行役を買って出ているのか…
『ミナトさん、』
「…いいね、その呼び方。新鮮で」
『貴方が言ったんですけど…』呼んでって
そしてこのタイミングで料理が運ばれて来た。
内容は、惣菜の盛り合わせと豆ご飯。焼き魚に汁物といった、純和食。
「さぁ、冷めないうちにどうぞ」
『…あの、非常に言いにくいんですが…
私、いま文無し、なんです…』
「文無し……ぷ、あはは!そっかそっか!
うん、そうだよね!分かってる。大丈夫だから、気にしないで食べてよ。面白…っ」
分かってるって…妙な言い回しだ。そして少し失礼だ。
私は少し膨れ面で、合掌してから頂きますと呟いた。