第1章 星降る夜になったら
◇
私は今、リヴァイさんの運転する車の助手席にいる。
カーステレオからはお洒落そうな曲が流れているけど、全く耳に入ってこない。
相変わらず頭はふわふわして、これは夢か幻か何かでは無いのかと思っているのだけれど。
隣でハンドルを握るのは紛れもなく“あの”リヴァイさんで、時折外灯に照らされて浮かび上がる横顔の美しさは幻じゃなく本物なのだ。
会場を出発してしばらく無言が続いていたが、不意にリヴァイさんが口を開いた。
「強引な真似して悪かった。」
「い、いえ…」
チラリと盗み見る。
当然のことながら運転中のためこちらは見ていない。
「あの、どうして私なんかを…」
どうしてこんな状況になったのか、それを確かめたくて恐る恐る問いかけたが、質問には答えないまま別の質問が飛んできてしまった。
「これから時間はあるか?」
「これから…ですか?」
「そうだ。あるなら少し付き合え。」
「え?!付き合うって、何を…」
「ごちゃごちゃ言ってねぇで答えろ、時間はあるのか?ないのか?」
「あぁっあります!」
強引な真似をして悪かったと謝られたのに、また強引に話を進めて支離滅裂じゃないかと思ったが、高圧的に問われ思わず私は返事をしていた。
「そうか、なら良かった。」
リヴァイさんはそう零すとまた黙る。
なぜ自分を?今からどこに?どういうつもりで?
聞きたいことだらけだったし、とにかくいきなりすぎて整理が追いつかない。
とりあえず何でも良いから浮かんだ質問から投げかけた。
「あの、私のこと…覚えてくださってたんですか…?」
「…いつも後ろのカウンターで酒片手に観てただろ。」
「あ、はい!見えてたんですね…」
「上からだと遠くの方がよく見えるからな。」
黙った横顔をまた見る。
再び街灯に照らされたけど、浮かび上がった顔はおなじみの仏頂面で何を思っているのかなんてさっぱりだ。
また少しの沈黙の後、抑揚のない声がした。
「手紙、読ませてもらった。」
「あ!無事に受け取ってもらえてたんですね…よかった。」
私はその一言に安堵した。
もみくちゃになってどこかへ行ってしまってなくてよかった。
ただ本人から直接お礼を言われると、私の想いは既に彼へとしっかりと伝わってしまったのかと思って、途端に気恥ずかしくなる。