第1章 星降る夜になったら
裏口には既に女子たちがひしめき合っていた。
皆口々に今日の感想を言いながら、興奮した様子でメンバーの登場を待ちわびている。エマは前回と同じ最後尾のあまり目立たない位置で待機した。
そこで待つこと20分。黄色い歓声に包まれて、メンバーのお出ましだ。
エマは目いっぱい背伸びして、必死にその姿を探した。
あっ!来た!
ついにリヴァイが戸口から出てきた。
現れた瞬間に一際大きな歓声が沸いたが、リヴァイは相変わらず愛想のかけらも無い顔で、近くで何か言う彼女たちを気に止めることもなく、遠くを眺めるようにして顔を上げた。
その瞬間、視線がぶつかる。
目が、合った…
いや。
これもいつもの錯覚?
あぁたぶんきっとそうだ。だって周りの皆もキャーキャー言ってる。
でも錯覚でも何でもいい。きっと自分のことも一瞬は視界に入れてくれただろう、それだけで充分だ……ん?
勝手に解釈した考えはすぐさま打ち消されることとなる。
なぜなら彼が一直線にこちらへ向かってきたからだ。
鋭い眼光がみるみるうちに迫ってきて、エマはとうとう瞬きさえも出来なくなった。
「そこのお前。」
「…はい」
目の前で足が止まる。
これは…
錯覚なんかじゃない。
だってこんなにも近くで目を合わせて、確かに私に向かって言ってるんだから。
周りは激しくどよめいているが、彼は気にする素振りも見せずに続けた。
「ライブに来ず出待ちとは、どういうつもりだ。」
「え…?」
「来てなかっただろ、今日。」
「……来て…なかったです、今日。」
驚きすぎて、言葉を反復するようにしか返事出来ない。
激しい動悸がする。心臓が爆発してしまいそうだ。
脳みそなんて全然使い物にならなくて、完全に思考回路はショート寸前だった。
周りがザワザワと何か言っている。
四方八方から妬むような視線が痛いほど突き刺さっているような気がする…
「チッ、……じゃ…に………もできねぇな。
おい、行くぞ。」
「えっ?ちょっまっ!」
ボソリと小声で何か呟いた後、リヴァイはいきなりエマの手を取り早足で歩き出した。
その瞬間背後から悲鳴が聞こえたが、手を振りほどくことは許されず、あれよあれよという間に引っ張られて行ってしまうのだった。