第1章 星降る夜になったら
会場に着いて時計を見ると、既にライブは始まっている時間だった。
当然ライブ中だから外にはがらんとしている。
エマは歩道の縁石に腰を下ろして、途中で買った缶コーヒーに口をつけた。
チケットを握りしめながら慌てた様子で中へ駆け込んでいく後ろ姿を数人見送りながら、啜る。
手のひらに温かい缶の温度が伝わり、体内に入った液体は冷えた体を内側からじんわりと温めてくれて、それだけでも幾分か寒さは和らぐ気がした。
…外からでも結構聞こえるんだ。
そのうちに中から音が漏れ出した。
音の輪郭はぼんやりだが、何の曲なのか分かるくらいには聞こえてくる。
壁越しに聴こえる重厚なベース音に耳を澄ました。
その音を紡ぐ姿を想像しただけで胸の奥がきゅんとなって鼓動が速まって、ソワソワしてしまう。
こりゃ思った以上に重症なのかもしれない…
イブの夜に一体自分は何をしているんだろう、歳も20半ばになろうとしてるのに追っかけみたいなことして恥ずかしいなと思いつつも、その場から動くことはしなかった。
いちファンでしかない自分にとっては、ライブに行くことができなければ、後はこんなやり方でしか彼を感じることはできないのだ。
こんなやり方しかないのだけれど、でもこうして彼にときめく一瞬はすごく幸せで満たされる。
結局ライブが終わるまで、エマはその場を離れなかった。
午後9時半過ぎ。
中から続々と人が出てきて、ライブが終了したのだと分かった。
エマは意を決した。
何度も言うが出待ちは演者にとって迷惑行為だと思われることが多い。
できることならメンバーには、リヴァイさんには迷惑をかけたくないと思っていた、けれど。
ひと目顔を見る。それだけでいい。
独りよがりなのは分かってる。
けれどここまで来たならもう引き返すことなどしたくなかった。
そう思ってエマは裏口へと足を進めるのだった。