第1章 星降る夜になったら
12月24日
エマは定時で仕事を終え真っ直ぐ家路へと向かっていた。
帰り際に同期が自分の部署で飲み会があると誘ってくれたけれど断った。
今日は何の予定もないが、自分からしたら他部署の飲み会。
いくら同期がいるとは言え気を遣ってしまう。自分の部署で飲むとき出さえ気を遣っていると言うのに。
仕事の人間と呑んだり、いわゆる“付き合い”というものはどうも好きになれない。
混雑する電車に乗り込むと、どことなくいつもと雰囲気が違った。
それもそのはず、今日はクリスマス・イブ。
カップル達は肩を寄せあったり手を繋いだりして、皆とても幸せそうだ。
きっと今日が特別な日だから、本人達もいつも以上に浮かれているのだろう。傍目から見てもそれがひしひしと伝わってくる。
それをぼーっと眺めながら、ふと思った。
今日のライブ、行きたかったな…
今日はaccesoの今年最後のライブだった。
でもチケットは持ってない。
インディーズ時代の最後のライブに加え、クリスマスイブも後押ししたのか今回のチケットはいつもに輪を掛けての高倍率。
そんな中望んだ争奪戦は先行販売も一般発売も尽く撃沈で、こんな日に限って初めてチケットが取れなかったのだ。
彼氏はもう3年はいない。
別に一人でも充実してるし、特段欲しいと思ったこともない。
けれど何故かこの瞬間だけは、ほんの少しだけ胸にぽっかり穴が空いたような寂しさを感じた。
エマは周りが視界に入らないよう伏せた。
こんな気持ちになるなら、飲み会行ったほうがよかったのかも…
ライブ会場に行ったって寒空の下でぼうっとするだけだし。
しかしその時、ふと前回出待ちしたことを思い出す。
出待ちは演者にとっては迷惑行為。なのは分かってるけど…
リヴァイさんの姿を一目拝むだけなら…
今年最後の会えるチャンスなのだ。
そして来年になればすぐに彼らはインディーズから移籍し、メジャーデビューする。
メジャーになったらライブももっと大きな箱でやるだろうし、今みたいに出待ちもできなくなるかもしれない。
もしかしたら目の前で彼の姿を拝めるのはラストチャンスなのかも…
そう考えているうちにいてもたってもいられなくなって、気が付けばエマはライブ会場がある駅で降りていた。