第1章 星降る夜になったら
午後10時前。
ライブが終わって30分以上が経ったが、エマの姿は未だ会場。
12月の寒々しい空気に身を晒しながら、さっきからずっと同じ場所で待っている。
かじかむ手を擦り合わせ続けているが一向に暖まる気配がない。
周りには自分と同じような女子が数十人。
エマは今、いわゆる出待ちの最中なのだ。しかも初めての。
演者にとって出待ちはあまり気分の良いものではないだろうから、いくら好きでもそこまでしようとは思わなかった。
けれど今日は少し訳が違うのだ。
今日はどうしても出待ちしなければいけない理由があったのだ。
「「キャーーー!!」」
ぼーっとしていると突然の黄色い歓声が耳をつんざいた。
ついにメンバーが裏口から出てきたらしかったが、小さな戸口から車に乗り込むまでの数メートルしかない道を、興奮した女子達が我先にと塞いでしまって、その姿はなかなか確認出来ない。
しかしとうとうお目当ての姿を捉えた。愛想よく手を振る二人のメンバーの後ろを歩く、小柄な男。
エマは徐々に縮まる距離に猛スピードで鼓動を加速させ、ついにそれは最高潮になった。
「リヴァイさんっ!」
けたたましい歓声の中、かき消されないように必死に名前を呼ぶ。
すると切れ長の瞳がギロリとこちらを向き、一瞬怯んでしまいそうになったが、エマは震える両手を差し出した。がしかし、
「あの!お手紙よかったら受け」
「リヴァイー!今日こそ写真撮ってぇ!」
「サインちょーだい!」
全部言い終わる前に、なだれ込んできた女達に押し出されるように列の外に追い出されてしまう。
「いった…みんな凄すぎ……あっあれっ?!」
今の今まで握っていた手紙が、ない。
焦ってリヴァイを探すと、ちょうど車のドアが閉まってしまうところで、受け取ったのか確認できない。
走り去る車を追いかけるようにガードレールから車道へ身を乗り出す熱狂的な女子達。
人混みが捌けた地面を探すが、手紙らしきものは落ちていない。
その時ビュンと強い北風が吹いて、思わず身震いした。
「飛ばされちゃったのかな…」
想いを込めてしたためた初めての手紙。
勇気を出して声をかけたのにこんな結果になってしまった。
自分は一体何をしてるのか…
エマはちょっと泣きそうになった。