第1章 星降る夜になったら
当時から有名らしかったが、その時のエマは知らなかった。
しかし噂通り彼らの楽曲は聴く人を惹き付けるような魅力を持っていて、エマもすぐに心を奪われた。
少しジャズの要素を交えた、上品且つ洗練された旋律は何度聴いても飽きない。
そして初めて彼らのライブを観た日から、エマはまんまとリヴァイの虜になってしまったのだ。
さしずめそれは恋心に近かった。そしてその想いはライブに行く毎に大きくなっていった。
この二年ですっかり名を馳せたaccesoは今や人気も凄くて、チケットはいつも即日ソールドアウト。
だが運が良いのか強い執念のおかげなのか、エマは今までチケットを外したことはない。
2週間に一度のライブには必ず駆けつけて、こうして彼を眺めてうっとりする夜を過ごしているのだ。
「「「キャーーーー!!!」」」
客席を薄暗く照らしていた照明が落ちて、会場中は割れんばかりの歓声で溢れた。
一気に興奮が押し寄せて息苦しくなる。視線は無意識にステージの左手へと注いだ。
程なくして歓声は止み、無音の闇の中、皆一様にステージに釘付けになる。
エマも張り裂けそうな心臓に手を当てながら、静かにその時を待った。
ドゥーーーン
闇の中に、重くて厚みのある低音が響き渡る。
その音の余韻の中、雨粒のように繊細なピアノ音が重なり唯一無二の旋律を奏で、ライドシンバルが装飾を加え、スネアの音が“タン!”とこだました瞬間、ステージは眩い光に包まれた。
3つの音が紡ぎ出す、切なく美しいメロディ。
エマは早くもその音色に陶酔しながら、視線はずっとステージ左側に釘付けだった。
目のいいエマにはこの距離からでも十分顔まで見える。
今日も申し分ないかっこよさ、否美しさだ。
繊細な指で弾かれる太い弦の音が、心地よく心臓に響いて益々気分は高揚した。
あ…今目が合ったかな?
こんなことを思ってしまうのも毎回のこと。
けれどたぶん他もそう思っている人ばかりだ。
大体自分がいる方向を向いたら、ファンなら誰しも自分と目があったと思う。
我ながら結構痛いと思うが、別にそう都合良く解釈してしまえばいい。それで少しでも自分の気持ちが満たされるのならそれでいいのだ。