第1章 星降る夜になったら
12月13日
仕事を定時で切り上げ向かった先は、通い慣れた一件のライブハウス。
開演の少し前まで近くのコンビニでコーヒーを飲んでから中へ入る。
「わ…今日もすごい人。」
オールスタンディングの会場は、後ろの方まで人で埋め尽くされていて、季節とは裏腹に異様な熱気に包まれていた。
収容人数3000人ほどのライブハウスだが、ここではもうキャパオーバーなのは一目瞭然。
エマは客席の一番後ろにあるバーカウンターへ腰を下ろして一杯注文した。
彼らを観る時はいつもこの位置からだと決めているのだ。
前で見れたらそりゃ見たいが、それには開場の1時間以上前には並ばなくてはいけないし、その後の前列陣取り合戦、ライブが始まったら今度は前後左右からの人圧に耐えながら観なければならない。
そんな大変な思いまでして近くで見るよりも、まぁステージからは一番離れてしまうがここで好きな酒を呷りながらゆっくりと鑑賞するほうがいい。
前方からはいろんなところからメンバーの名前を呼ぶ声がしきりに響いていた。
accesoは男二人女一人のスリーピースバンドだが、ここにいる女子達はほとんどベーシストのリヴァイがお目当てだと言っていい。
端的に言えば彼は見た目がいいのだ。
眉目秀麗な顔立ちで、何より彼がベースを弾く(はじく)姿は何とも言えない妖艶さを纏っていて美しい。
そう、かっこいいなんてそんな言葉では収まりきらない。もはや美しいのだ。
それと、彼はとにかく愛想がない。
目つきは悪いし演奏中ニコリともしなければ、まともに喋っているところも見たことがない。
だけどファンにとっては、そんなクールなリヴァイがかっこよくてたまらないのだ。
あのSっ気のある目に睨まれて蔑まされたい、とまで言い出すほど沼にハマってしまっているファンも少なくはない。それほどまでに彼は魅力的なのだ。
そしてかく言う私もそんな魅力に取り憑かれてしまった一人。
今だって彼の登場に極限にまで高ぶった期待で胸が押しつぶされそうな程だ。
accesoに出会ったのは今から2年前。
会社の先輩がチケットを持っていたのだが、こういう音楽にはあまり興味ないとかで、当時インディーズバンドのライブ巡りが趣味というのが社内ですっかり定着していた#NAME1にそのチケットが回ってきたのが始まりだった。