第1章 星降る夜になったら
◇
結局核心に迫るような答えは聞き出せないまま車は悪路に突入し、揺られること20分。
「着いたぞ。」
「ここは…?」
連れてこられたのは、辺り一面まっ暗闇の場所。
車のライトに鬱蒼と生い茂った木々が照らされているが、それを切ってしまえばたちまち周囲は漆黒の闇に包まれてしまう。
リヴァイはエマの質問に答えないまま先に外へ出て、くるりと助手席側に回り込むとドアを開けた。
「降りろ。ここから少し歩く。」
「は、はい!」
地面に足を着いたと同時に握られた右手。
「あっ、あの…!」
「道が悪いから離すなよ。」
「はい…」
戸惑いながらも手を握り返す。
骨張ったリヴァイの手は意外にも温かかった。
相変わらず辺りは真っ暗で林以外は何も見えず、一切の音もない。
どうやらここは森か、山のようだった。
さっきから呼吸がしにくくなるほど心臓は激しく波打っていて、繋いだ手にも手汗をかいてしまわないかずっと気が気じゃなかった。
そのまま無言で5分ほど歩いたところで、急に立ち止まる。
「ここだ。」
「……ここ、ですか?何もないような…」
「上を見てみろ。」
「……!!」
言われた通りに見上げて、エマは言葉を失った。
見上げた闇に、数えきれないほどの煌めく星たち。
まるで真っ黒なキャンバスに宝石を散りばめたかのような、息を呑むほどの美しい輝きがそこには存在していた。
「……きれい」
「悪くねぇだろ」
感じた思いがそのまま口から漏れ出ると、どことなく柔らかな声が聞こえてくる。
隣に並んで、一緒に見上げる。
繋いだままの手に微かに力が篭ったような気がして、空から隣へと目線を移したけれど、彼は静かに星空を見上げていた。
眩い星灯に浮かび上がる、筋の通った鼻、シャープな顎、小さくて薄い唇、浮き出た喉仏。
やはりかっこいいという言葉より“美しい”のほうがこの人には合っていると思った。
「…………」
「…………」
二人の間にそっと静寂が訪れる。
だけど別に気まずくはない。むしろ心地いい。
そして繋がれた手から伝わるリヴァイの体温が、今確かに彼の隣にいるのだということを強く感じさせて、やはりこれは夢ではないのだと思い知らされた。