第1章 香雨降りて待ち人想う
バキィッッ!!!──────
刹那、鈍った音と軽くなる両手。
男の手にしていた木刀は、物の見事に大破し、砕けた木片が紙吹雪のように舞い散る。
───突如として降って湧いた攻撃を、家主は雨粒でも凌ぐかのように片腕一つで防いだのだ。
さながら全てを見通しているかの様だ、と男は感嘆しながらも距離を取り、縁側へと膝を着いて着地した。
すると家主はゆっくりと目を見開き、黄支子と猩々緋に彩られた強烈な双眸をぐりんと男へ向ける。
「やぁ!!誰かと思えば宇髄か!!」
『まぁ、派手にうるさい中身がそうはさせないわけだが』
と、彼の性格に劣らない派手な見目を持つ“宇髄”と呼ばれた男は、先程までの敬虔な僧侶の如き家主の姿と、今の姿を重ねながら思いを馳せた。
「よぉ煉獄。相変わらず化け物級の反射だな」
「いや!宇髄もさすがだな!!気配も物音も見事に殺していたな!!!恐れ入る!!!」
“煉獄”と呼ばれた男は、豪快に宇髄を褒め称える。下手をすれば鼓膜が破れるぞと言いたくなる程の声量だが、恐らくは元来の彼の個性なのでどうすることも出来ない。
「しかし、瞑想に集中し過ぎたようだ!出迎えも行わず申し訳無い!!」
「……あぁ〜〜〜良いって良いってそんなモン。勝手に上がり込んで襲いかかってんだぞ俺は。文句の一つでも言いやがれ」
宇髄はガシガシと頭を搔くと、苦い顔を浮かべた。それを聞くと煉獄は、暫しの間を置いて答える。
「しかし事実は事実だ。本当にすまない」
宇髄の手は止まり、次には深い溜め息が吐き出される。
明らかに相手に非があっても、礼節を重んじる煉獄。それをさも当然のように行う彼のこういった所が、宇髄はどうにも苦手だった。