第1章 香雨降りて待ち人想う
「誰からだ?」
「これは…千寿郎からだ」
“千寿郎”は、年の離れた煉獄自慢の弟だ。よく見慣れた字の宛名書きの文に、煉獄は少し眉根を寄せる。
「どうかしたのか?」
「いや、つい最近も文を貰ったばかりなのだがな…。何かあったのだろうか」
一抹の不安を抱えながらも、煉獄は文を広げて生真面目な性格がよく出た丁寧な文字へと視線を走らせ始める。
黙りこくったまま読み進める煉獄に、痺れを切らした宇髄は 彼の肩に手を置き問い掛ける。
「おい煉獄、弟は何だつってんだ、」
「すまん宇髄ッ!!!!!」
突然文から顔を上げた煉獄の爆裂な大声を間近で浴びた宇髄は、弾丸を食らったが如く痛む耳を、唸りながら抑える。
「て、テメェ煉獄…大声出すなら出すって言えやぁ…!!」
「宇髄!悪いが茶はまた後日にしてくれ!!」
「は、はぁっ?お、おいどこ行くんだよ?」
文を握り締めながら唐突にどこかへ行こうとする煉獄。一変した様子に、宇髄は慌てて問い掛けた。
くるりと振り返った彼は、燃える様な猩々緋の瞳を宇髄に向けて口を開く。
「恩人探しだ!!!!!」