第1章 香雨降りて待ち人想う
『俺の立つ瀬が無くなる奴だ』と宇髄は心の中で呟きながら、彼の隣に腰を降ろす。
「先程のはもしかして手合わせの誘いだったか?」
「あぁ。そのつもりだったが、どっかの誰かに見事に木刀をおじゃんにされたがな」
木刀の面影の無い欠片たちを親指でクイクイと指す。
煉獄は暫し黙った後、「それに関しては全面的にすまない!!」と声を張り上げる。
彼の様子に、宇髄は愉快そうに肩を揺する。
「そう慌てるこたねぇよ。別に怒ってるわけじゃねぇし」
「む、む。そうか…。では、詫びと言っては何だが、茶を入れてこよう。丁度この間弟から貰った大学芋があるんだが…」
「おっ!良いねぇ〜。お前の茶は美味いし、お前の弟は料理が上手だし。ド派手に最高だな」
すっかり上機嫌の宇髄に、煉獄も満足気に頷く。早速茶の準備をして来ようと立ち上がった時、
───────カァッ カァッ
一匹の鴉の声が煉獄邸へと迫ってきた。
それに気付いた二人は、羽根を広げるそれに注意を向ける。鴉の目的は煉獄らしく、ゆっくりと煉獄の前へと高度を下げていく。
煉獄は静かに腕を差し出し、止まり木の代わりを作ってやる。鴉は腕に止まったところで、また一鳴きした。
「文か?」
「そのようだ。 ……うむ、御苦労だったな」
──────カァッ
煉獄が鴉の足から結び付けられた文を外すと、再び羽根を広げて飛び去っていく。