第4章 ブレスレット
『意味、分かんない……』
探偵社から飛び出してきた。
お兄ちゃんに会いたい、今すぐ抱きしめて欲しい。
どうしようもなく会いたい。
なんで太宰さんは私にこんなことするのか全然分からない。
──今何してるんだろう……
お兄ちゃんの事ばかり頭に浮かぶ。
お兄ちゃんのところに行って、さっきのことを忘れたい。
ただひたすら走る。
『……っ』
さっきのことが嫌だからか、お兄ちゃんを思い浮かんだからか分からないけど涙が出てくる。
無意識に唇を袖で拭いた。
無我夢中で走っていたせいで、道が狭い十字路で車が来ていることに気づかなかった。
ブーッと車のクラクションが響く。
轢かれる。
反射で目を閉じた。
轢かれるのを覚悟したけど、そうならなかった。
誰かが後ろから私を引き寄せた。
ドサッ…と私と助けてくれた人が尻もちをつく。
心臓をバクバクさせながら去っていく車を見る。
「怪我はないかい?」
その声でハッとした。
『女医(せんせい)……あ、ありがとうございます』
助けてくれたのは、探偵社の女医の与謝野さんだった。
「じゃないかい、バカ。なンで危ない所で走ッてんのさ」
『ご、ごめん、なさい……』
「謝るのはアタシにじゃなくてあの運転手に謝りな」
もう行ッたけどねェ……とスカートをはたきながら女医は立ち上がる。
ん、と女医は私に手を差し伸べる。
その手を私はおずおずと握った。