第3章 身近
休憩の時間も惜しんで、仕事を終わらせた。
もう社員の皆は帰る。
私はお兄ちゃん達が帰る前にお兄ちゃんを呼ぶ。
『あっ、お兄ちゃん、少し話し良い…?』
私がそう言うと、お兄ちゃんはあの子に「先帰ってて」と声をかけていた。
ゴロゴロと、どこかで雷が轟く。
お兄ちゃんは険しい表情で空を見上げる。
なんて言えばいいのか分からなくて、沈黙が続いた。
それが気まずかったから聞いてみる。
『どうしたの?』
私が聞くと、お兄ちゃんは答える。
「鏡花ちゃん、雷が苦手なんだ。一人で帰らせたの不味かったかな」
『……』
そうなんだ、って言葉に出来なかった。
あの子の事が心配なんだ…
どうしてか私の心はズキズキと痛かった。
『……今日、なんで無視したの?』
さっきまでのお兄ちゃんは素っ気ない態度で、少し怖くて他人のように感じた。
「無視なんてしてないよ」
『でも、お兄ちゃんの態度冷たかった』
「そんな事ないよ」
お兄ちゃんは「そんな事ない」と言うけど、絶対そんな事あった。
でも本人がそう言うなら、そうなのかもしれない。
『…そっか。じゃあ』
私はその場から去ろうとする。
「あ、ちょっと待って、何か怒ってる?」
帰ろうとする私をお兄ちゃんが止めた。
『何でもない。』
「何でもないって…」
『何で?私のことなんてどうでもいいくせに』
「えっ、なんでそんな事…」
お兄ちゃんは私が言ったことに驚いた。
『……分からないならいい』
やっぱりお兄ちゃんは分かってくれていない。
「なんで言ってくれないんだよ」
『っ……、なんで言わないと分からないの!?
お兄ちゃんは私のお兄ちゃんでしょ。なんで…あの子のことはわかるのに私のことはわからないの!?』
つい声を上げてしまった。
でも、お兄ちゃんに伝えたかった。