第4章 二章
凪「ありがとうございました」
少し低めの落ち着いた声が柔らかく響く。
時間ギリギリでバイト先のスーパーに到着した凪緒は、素早く着替えて持ち場に着くなり一気に列が出来上がった。
凪緒のこの見た目と制服のせいで、女性客の大半からはイケメン男性店員だと思われている。
そもそも、凪緒が自宅近くのスーパーでバイトをしているのには理由がある。
家計のためだ。
母親は父親が事故で亡くなってから、ずっと精神を病んでいる。その上妹はまだ幼く病弱。
必然的に収入源は凪緒だけになる。
妹の入院費、食費や光熱費など、普通なら親が働いて払うもの全てを凪緒1人でやりくりしているのだ。
生活支援金も多少は貰っているが、それでも限りがある為バカスカ使うわけにはいかない。
凪(...今月もギリギリだな)
バイトを終え、今月分の給料を受け取って帰宅する。自分のために使えるお金なんてほぼほぼ無い。
この前のタピオカは何ヶ月も貯めたお小遣いで買った。頑張った後のご褒美は定期的に必要で、久しぶりの贅沢だったのだ。
小学生のお小遣いかと思ってしまう程度しか自分の取り分は無いが、生きていくためには仕方ないと割り切る。
凪「...せめて、お母さんの精神状態が安定したらな...」
昨夜の残りのカレーを温める。まだ温まりきっていないカレーは、まるで今の凪緒の心情を写しているかのようにドロドロしている。いつかこのドロドロした気持ちが消える日は来るのだろうか。
そう思わずにはいられなかった。
翌日
いつも通りに起床し、お弁当を2人分作って片方だけカバンに入れる。
凪「お母さん。私もう行くから、今日もちゃんとお弁当食べてね」
母「...」
凪「...行ってきます」
いつも通りの朝。でも、一般的じゃない非日常的な朝。
自分も幸せな温かい家庭に生まれたかった。そう思う事は何度もあったが、どれだけ理想の家庭像を考えても、最終的には今の自分の家のような最期になってしまう。
凪(私には...幸せな家庭がどんなのかすら、分かんないや...)
暗い気持ちを振り払うために、今日の生徒会の仕事は何だったか思い出す。
凪(校内の見回りと...あ、次期生徒会選定会の内容決め...)
今日もやることが多いな、と少し伸びをして再び学校への道を歩み始める。
凪「今日も頑張ろ...」